選挙

「選挙」を見た。

 この映画は2005年の川崎市議会議員補欠選挙の立候補である山内和彦を撮ったドキュメンタリーで、想田和弘監督による1作目の”観察映画”だ。本当にその名にふさわしい観察っぷりでドキッとなった。

 そこまで映していいの?って場面が多々あって、フィクションにはないスリリングさがヒリヒリした。

 もともとタマフルで監督の名を知って、気にはなっていたが手軽に見る手段が無かったので今まで見ていなかった。申し訳ないけどわざわざアマゾンでDVDを買うまでに至らなかった。そんな中、ついこの前に最寄りのツタヤの店内を徘徊しているときに発見した。

 大統領選挙の影響なのか、パッケージを向けて陳列されていて、すぐ目についた。

 奇しくもトランプ大統領が誕生したその日にこの「選挙」を見るとは思わなかった。普通に見ても選挙そのものについて考えること必至なのに、海外とはいえ歴史的な選挙戦をリアルタイムで追っているその日にってのはタイミング良すぎてアレだ。

 そんなこんなで見た「選挙」。もうほんと選挙ってなんなんだって思いでいっぱいになった。一つの自治体の議会選挙(それも補欠)とはいえ、中身の無さに哀しくなった。哀しいといっていいのか分からないけど、表しようのないやりきれない気持ち。

 泥臭い選挙活動は一般的な営業職とやっていることが同じに見えた。いかに名前を覚えてもらい、良い印象をどうやって与えるか。それらに特化することが当選の定石なのは分かるけど、政策や議論がまったくと言っていいほど無い。劇中でも山内さんが記者に政策について尋ねられて狼狽える場面があるほどだ。

 AKB48が総選挙を始めて数年経っているけど、実際の政治的な”選挙”と本質的には同じなんじゃないかって思ってしまった。むしろAKB側のパロディ力が凄いのかもしれないし、私が知らないだけではるか昔からこんな感じなのか。だとしたら、なおさら気分がへこむ。

 なぜそこまで落ち込むのかを考えると、選挙に対して理想のようなものを持っていたのだと思う。多額の税金がかかるし、多くの人が関与して、投票が行われるのだから、ちゃんとしてるはずだって。”ちゃんと”ってなんだって話ですが、それなりに政治的に合理的な出来事だとなんとなく認識していた。

 もちろん、たかが川崎市議会の補欠選挙だから政治的な重要性は小さい。票集めと政策決定は違うものだ。それを踏まえてなお「選挙はこんなものなのかー」と思わずにはいられない。

 全国各地の地方都市でも同じような状況だとしたら、また、より大規模な国政選挙も含めるとどうにも暗い気持ちになる。

 選挙その物の実態もそうだけど、ある種の日本人の日本人らしさがものすごく表れている映画だとも思う。みんな洋服を着ているが和服でも全然やっていることに違和感を覚えない感じがする。年配の人たちが中心に動いているからそんな気になるのか、同じ国の文化とは思えないほど距離を感じた。

 やっぱり知らない世界を覗けるのはドキュメンタリーの醍醐味だ。

 これまでを振り返って、成人してから選挙は3回行ったけど、今後はもう少し考えて投票したくなった。普段政治に関心のない私でもそう思わせてくれる映画だった。これからは街頭演説を見かけたら「選挙」を思い出して、その裏側の様子や人たちを想像するだろうな。

 この続編となる「選挙2」も評判を聞くけど、「精神」や「演劇」が見たいかな。

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